こおろぎの鳴く声
網戸越しに見える暗い庭の草むらから、こおろぎが少し鳴いては休み、また鳴き出して、その声はいつまでもやみそうにありません。
家の前を走る車の数も少なくなって、夜は更けてきました ・・・・
今年は何時までも暑すぎる などと朝から晩までダラダラしているうちに、やっぱり秋はきていたんですね。 お月様もなんとなく透きとおってきてますから。
たった一人でテレビも消してボンヤリこおろぎの声に聞き入っているうち、コロコロ鳴く声が わたしを呼んでいる父さんの声に聞こえてきました。
しきりに呼んでいます。 元気か? 変わりはないか? 辛い事はないか? ~~~
最後に見舞った時 「それじゃぁ またくるからネ」 と言って病室の入り口で手を振りました。 、仕事以外に家族団らんなどと縁遠い働き者の父でした。 意に反して思いがけず長い闘病生活を送る羽目になって、どんなに無念だったことでしょう。
一度、病室を出たわたしだったのに、何かが、わたしを引きとめたのです。
二、三歩戻って父を覗いたら、ベッドの上でちょうどタオルを目にあてがって嗚咽をしているところを見てしまいました。
走りよって思わず肩を抱きました。 言葉はいりません。黙って背中をさすってやりました。・・・・ その時父の命は、あといくばくも無かったときです。
・・・ 父さんは死ぬのが怖いヨ。 心細いヨ。 と、あの気丈な厳しい、逞しい男そのものだった父が訴えたのです。
わたしだけ他県に住んでいることもあって、見舞いにもめった行けず、親不孝なわたしでした。 父はそれから暫くして亡くなりました。
家族の誰一人も最後の父に逢えなかったことで、わたしは「父さん、寂しかったでしょう。心細かったよネ・・・」といつまでも涙が止まりませんでした。
わたしと父は仲が悪く?いつも反抗してケンカばかりをしていたんですが・・・
後に、この話をクリスチャンの弟にした時、「姉さんは、死ぬのが怖いと父さんが言ったときどう答えたの?」 と聞きました。
わたしは、なんにも言えなくて、ただ、父さんの背中を撫でていただけ。 と答えたら、弟はそれしかないよねえ・・・と言いました。
父は平成元年に亡くなりました。 こうして、こおろぎの声を聞いただけでも想いだすのです。 ケンカばかりした父だったけど、わたしは母より父のほうが恋しくてなりません。この歳になっても・・・
秋・・・こおろぎ、虫の声 いよいよ大好きな季節到来です。
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